人的課題解決のカギは「スキル・ファースト」~シンガポール政府・産業界からの提言

 

こんにちは! リーラコーエン シンガポール リサーチャーのShihoです。

天然資源を持たず、近年では高齢化が急速に進むシンガポールにおいて、人材の活用は非常に重要なテーマです。

在シンガポール企業には人的な制約を克服すると同時に、国際的な競争力も維持するという難易度の高い課題が突きつけられており、この状況をどう乗り越えていくかの手腕が問われています。

シンガポール人材省 (MOM)とシンガポール全国経営者連盟 (SNEF)が今年2024年、産業界の各団体・企業と連携して立ちあげた人材へのアクセス拡大に関する行動同盟。

この同盟組織から、人的課題に打ち勝っていくための提言が先日発表されました。

今回はその提言の内容をお伝えしてまいります。

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【目次】
1. 人材へのアクセス拡大に関する行動同盟(AfA)とは
2. 雇用主が人材へのアクセスを広げるためには
3. AfAからの8つのアクション提言
4. 最後に

 

1. 人材へのアクセス拡大に関する行動同盟(AfA)とは

高齢化、出生率の低下などの労働人口動態の変化により労働市場が逼迫するシンガポール。

労働人口の年齢中央値は2013年の42歳から、2023年には44歳に上昇しており、資源の制約や当地の人口構成バランスをとるという社会的ニーズを考慮すると、外国人労働力受け入れを継続して拡大するにも限界があります。

喫緊の課題にさしあたって作られたのが、人材へのアクセス拡大に関する行動同盟 (Alliance for Action、略してAfA)です。

今年2024年1月に、シンガポール人材省 (MOM)とシンガポール全国経営者連盟 (SNEF) が産業界、各界のビジネスリーダーなどの連携を仰いで結成されました。

国が直面する人的課題に対して、産業界主導でソリューションを開発して人材の競争力を高めることを目指しており、会員には有名多国籍企業や国を代表するさまざまな業界・企業が名を連ねています。


2. 雇用主が人材へのアクセスを広げるためには

MOMの調査では、2023年には全求人の半数近くが新たに創出された新規ポジションである一方、専門職・管理職・総合職・技術職を指すPMET職の半数近く(47.6%)が、専門スキルの不足のため、少なくとも6ヶ月間は未充足のままだったという結果が出ています。

日々変化する技術革新やビジネスニーズに対応しようとする中で、労働力におけるスキル不足が浮き彫りにされています。

AfA会員が9ヶ月間にわたってワークショップや様々なセクターに分かれての議論、テストを重ねてきた結果、特に成長分野や新興分野において人材の確保と定着には共通の課題があることが判明し、課題解決の糸口としては以下の2つに大別されました。

解決法 1)スキル優先の雇用プラクティス
類似または隣接する人材プールから雇用することで、企業は貴重で移転可能(transferable)なスキル・経験を活用できる

解決法 2)スキル優先の人材開発
社内での人材の流動化と人材確保に焦点を当てたプラクティス

つまり人材確保には「スキル優先」型の慣行が解決策である、という結論です。

業界によって特徴は異なるものの、人材獲得における課題は似通っています。

包括的な問題に対処しつつ、セクターごとの解決策を可能にする統一的なステートメントとして、今回「雇用主が人材へのアクセスを広げるための指針となる4つの重点分野」を発表しました。

a. スキル重視の採用慣行を通じて、隣接する人材プールから移転可能な専門知識を活用する
  
職歴や学歴にとらわれず、AIや国家資格試験などを活用して横展開可能なスキルや潜在能力を評価することで、企業は候補者プールの拡大、候補者マッチングに対する信頼性の向上、採用期間の短縮といったメリットを得られる

 

b. スキル重視の労働力開発を通じて従業員の機敏性と定着率を向上させ、社内の流動性を促進する
  スキルと機会マッチングのシステムを社内で構築する。そうすることで企業は採用コスト削減、従業員満足度の向上による定着率の改善、より機敏な労働力を得るといったメリットを享受できる。 (中堅企業も開発には費用対効果があるが、規模的に費用対効果が落ちる中小企業にとってはそうでもない)

 

c. 仕事の再設計を通じて、多様なニーズを持つ労働力セグメントの、仕事へのアクセス性を高める
  例えば小売業であれば、小売業に特化したマーケットプレイスを構築し、関連団体 (高齢者センターなど)と提携して、人材充足の為に非アクティブ労働者層にリーチ・開拓する。これには、企業が業務の役割やタスク、必要なスキルなどを改めて細分化し、個人にとって仕事がよりしやすくなるよう勤務形態などの調整が必要

 

d. HR機能を向上させてスキル重視の慣行とし、中小企業がHRサービスにアクセスできるようサポート
  スキル・ファーストへの移行が進んだ組織には「人事が説明責任を担い、経営層と連携を上手くとれている」「人事制度や人事プロセス、方針が整備されている」「人事担当者が高い知識と能力を有する」といった背景が共通して見られたことから、経営陣は人事部門により権限を与えて、従業員との媒介として機能させると良い(専任の人事担当者が少ない中小企業は、より多くの支援を必要とする可能性がある)

 

3. AfAからの8つのアクション提言

人事施策のあらゆる面でスキル・ファーストの考え方が重要とAfAは説いていますが、多くの企業にとってスキル・ファーストの考え方に移行するにはまだ障害が残ります。

デロイト社の2023年の調査によると、肩書きや学位ではなく、スキルに基づいて労働者を定義するスキル・ファーストを実施している・またその意思があると回答した企業はわずか20%に過ぎず、在シンガポール企業の53%が人材獲得、育成、定着に関して支援が必要だと回答しています。

スキル優先の採用活動によるメリットは人材プールの拡大だけではありません。

欠員補充にかかる時間が25~35%短縮され、採用者の能力やキャリア志向が職務に合致することで定着率も向上する(一部の技術職では63%)との試算も出ています。

上で挙げた「雇用主が人材へのアクセスを広げるための指針となる4つの重点分野」には、8つの推奨アクションも併せて提言されています。

a. スキル重視の採用慣行を通じて、隣接する人材プールから移転可能な専門知識を活用する
・国家資格などの技能分類に応じた採用を奨励し、労働者の技能データベースを開発する
・さまざまな背景をもつ候補者の移行可能なスキルを評価できるよう、スキルの必要性が高い職種を対象とした分野別/職種別の評価テストを開発する

 

b. スキル重視の労働力開発を通じて従業員の機敏性と定着率を向上させ、社内の流動性を促進する
・社内公募など、社内での人材最適配置の仕組み作り、及び周知
・人材開発の機会を集約する「人材共同開発」モデルの構築
・会社主導での、従業員のキャリア設計や技能開発のためのキャリア指導・計画の機会提供

 

c. 仕事の再設計を通じて、多様なニーズを持つ労働力セグメントの、仕事へのアクセス性を高める
・学生、高齢者、専業主婦などの非アクティブ労働者層に充足しにくい仕事に就いてもらうための体系的なプログラム開発

 

d. HR機能を向上させてスキル重視の慣行とし、中小企業が HR サービスにアクセスできるようにサポート
・中小企業が人事アドバイザリーやコンサルティング・サービスを利用できるようにし、雇用主のスキル優先の雇用と人材開発能力を向上させる
・人事プロフェッショナル協会 (IHRP)の認定を通じて人事のレベルアップを図れるよう、業界が後押しする


4. 最後に

人材獲得、育成、定着などあらゆる人事施策において、スキル・ファーストの慣行が今後は求められると、シンガポール政府・産業界リーダーたちは結論付けています。

少ない人的資源を余すことなく活用するという姿勢が垣間見えますね。

この他にも、柔軟な勤務体制の職場作りや労働者のリスキリング、職場における差別の根絶など、さまざまな側面より企業・労働者支援が精力的にシンガポールでは行われています。

これらは、人事に関わる人々はもちろん、当地で働く人々にとっても重要なテーマです。

今後も人事トピックスに関して配信し続けてまいります。

 

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