2024年シンガポール予算案 要点まとめ

こんにちは。

リーラコーエン シンガポールマーケティング担当の野上です。

2024年2月16日、ローレンス・ウォン副首相兼財務大臣は国会にて2024年度(2024年4月~2025年3月)の予算案を発表しました。

「BUILDING OUR SHARED FUTURE TOGETHER」(私たちの未来を共に創る)という強いメッセージが込められた今年のスピーチ。

ウォン副首相は、シンガポール国民や企業がより団結した強い国家の実現に向けた計画を発表しました。

今年の予算は、1,313億7,000万シンガポールドル(以降SGD)。

特に個人におけるインフレ対策、家庭・シニア層への支援、企業、中堅労働者層へのスキル開発、新興技術支援、低炭素エネルギーへの移行推進などに投じることを明らかにしました。

今回は、そんな2024年の予算案より、個人・企業に焦点を当てたポイントに絞って、要点をご紹介いたします。


【目次】
1.国民への経済支援策の強化
2.SkillsFutureイニシアチブの拡張
3.国家経済の競争優位性の強化
4.その他領域への投資
5.人員整理対象/低所得労働者への経済支援
6.中小企業(SME)向けスキームの強化
7.その他領域への投資
8.最後に

 

1.国民への経済支援策の強化

まずはシンガポール人に向けたインフレ・増税に対する還元策として、19億シンガポールドルの家計支援策を発表しました。

これはGST引き上げの影響緩和策として2020年に導入された保障パッケージの一環で、21歳以上の対象となるシンガポール人全員に200~400シンガポールドルの現金が支給されます。

約250万人のシンガポール国民が対象となります。

さらに、対象となる世帯にはホーカーセンターやスーパーなどで使用できるCDC(Community Development Councilsの略称)バウチャーが600シンガポールドル分追加され、半額分が今年6月末、残りの半額分が2025年1月に支給されることになりました。

このほかにも21歳から50歳のシンガポール人には医療費積立「MediSave」へ300ドルのボーナス、国家公務員全員には200シンガポールドルの「LifeSGクレジット」が支給されます。

家族向けには、公営住宅(HDB)賃料のバウチャーや子どもの保育料の引き下げ、教育機関への助成金や奨学金などに充当される「Edusave」への20億シンガポールドルの投資などの施策が発表されました。

シニア層にも退職後の手当の引き上げ等が予定されています。


ウォン副首相は、「家族と高齢者にさらなる保証を提供することで、最終的により強い社会と未来を共に創ることができる」と強調しました。

 

2.SkillsFutureイニシアチブの拡張

シンガポール国籍を持つ労働者が自身のアップスキル・職業訓練のために受講できる生涯職業能力開発プログラム「SkillsFuture」。

40歳以上のシンガポール人は自身の中堅キャリア育成のため、5月に4,000シンガポールドルのSkillsFutureクレジットの上乗せと、特定のフルタイムコースに入学した場合、毎月最大3,000シンガポールドルの訓練手当を受け取ることができるようになると発表されました。

これにより、経済的な課題となっていた長期にわたる訓練コースの受講がより手軽に受けられるようになります。

労働者が昨今のデジタル化に関連するスキルを身につけ、急速に変化する人材市場で自身の競争力を高めるために導入される本施策。

これにより、国民一人ひとりがさらなる教育機会やキャリア開発を目指すことができるようになります。

なお、40歳未満の労働者は、40歳に達した時点でSkillsFutureの上乗せ手当を受け取れます。

ウォン副首相は演説で、「企業は労働者のスキルアップと再教育に投資することが奨励される」としました。

次に企業に向けた施策を見ていきましょう。


3.国家経済の競争優位性の強化

今回の予算案で、政府は国家経済の競争優位性をさらに強化するための中長期経済施策を発表し、130億シンガポールドルを投資することを発表しました。

主となる軸は、AI関連の新興テクノロジーの強化、グリーンサステナビリティ(脱炭素エネルギーへの移行)推進です。

今後10年間で国の経済成長率を年平均2~3%とする目標達成に向けて、様々な施策を発表しています。

130億シンガポールドルの内訳例としては、企業が新たな研究開発、イノベーションを推進することを支援する2021年~2025年に設定された施策「Research, Innovation and Enterprise 2025(RIE2025)」への30億シンガポールドルを追加投資。

追加分は、先端製造業、サステナビリティ、デジタル経済、ヘルスケア分野へ充当する見込みです。


金融サービス部門では、競争力向上を図るため、金融セクター開発基金(Financial Sector Development Fund: FSDF)を20億ドル増額します。

銀行、資本市場、資産運用、保険などの中核分野だけでなく、フィンテック、環境に配慮した投融資を推進するグリーンファイナンス、低炭素社会へのスムーズな移行を推進するトランジションファイナンスなど、3つの新分野での取り組みを拡張・強化していくとしました。


さらに投資促進策の一環として、投資税額の一部を控除する「リファンダブル投資控除(Refundable Investment Credit:RIC)」を導入します。

例えば、最長10年の期間、製造工場や低炭素エネルギー生産に関する投資、デジタルサービスやサプライチェーンマネジメント(SCM)における企業活動などに対して経費の最大50%を税額控除します。

控除額や期間については、経済開発庁(EDB)と企業庁が審査するものとしています。

本制度の導入にあたり、20億シンガポールドルの追加拠出が予定されています。


4.その他領域への投資

このほか、中長期経済施策下においては以下への投資も行われる予定です。


低炭素エネルギー推進への投資

シンガポール政府は、炭素排出量の削減、そして低炭素エネルギーの利用を促進するため、新たに「未来エネルギー 基金(Future Energy Fund)」を設立し、初期投資額として50億シンガポールドルを拠出する考えを明らかにしました。

国内に小型原子力発電所の建設・設置を視野に入れているほか、海外から低炭素の電力を輸入するためのインフラの整備に充てる考えです。 


人工知能(AI)への投資

国家AI戦略2.0 (NAIS 2.0)の施策の下、今後5年間で10億シンガポールドルをAIコンピューティング、エンジニア育成に投資することが明らかになりました。

また、同予算は別途AIチップの開発費用にも充てるとのことです。


ブロードバンド(インターネット)スピードの改善

AIをはじめとした技術革新をサポートするため、2030年までに最大毎秒10ギガビット(Gbps)の高速ブロードバンドを大量に利用できるようにするためのブロードバンド環境の整備にも取り組むことを発表しました。

これは、現在の一般家庭のブロードバンド速度の10倍に相当する速さです。


5.人員整理対象/低所得労働者への経済支援

人員整理の対象となった労働者に対し、転職時の経済的負担を軽減するための一時的な財政支援スキームが導入されることも発表しました。

この制度は、個人が訓練を受けたり、適切な雇用機会を探したりする間の支援を提供し、困難な時期におけるセーフティネットを提供するためのものです。

詳細は今後発表される予定です。

シンガポール国籍・PR(永住権)保持者の低賃金労働者に対する支援施策も発表されています。

まずは「Workfare Income Supplement Scheme(ワークフェア所得補助金)」を2,500シンガポールドルから3,000シンガポールへ引き上げることとしました。

さらに、「Progressive Wage Credit Scheme (PWCS:累進給与補助金制度)」のもと低賃金労働者の昇給を行う企業に対し、政府は今年度の支援額を最大30%から50%に引き上げることになりました。

月額2,500 シンガポール以下の労働者の場合は昇給額の 30~50%、月額が2,500 シンガポールドル以上~3,000シンガポール 以下の場合には15%~30%にそれぞれ引き上げます。

補助金の支給時期は来年2025年の1~3月期となります。

これらの措置は、所得水準を引き上げ雇用保障を改善することで、すべての労働者に対する公正な報酬を確保することを目的としています。


6.中小企業(SME)向けスキームの強化

ウォン副首相は、中小企業が多国籍企業(MNE)とサプライヤー開発や共同イノベーションにおけるコラボレーションを支援する現在の「Partnerships for Capability Transformation (PACT)スキーム」を、より一層充実させる考えを明らかにしました。

今後は、より多くの分野、特に能力訓練や国際化、ベンチャー企業との提携、グリーンソリューションの採用、排出量削減を支援するよう強化される予定とのことです。

当地の中小企業力を高め、新たなビジネスチャンスを獲得できるよう支援することが目的と見られています。

このほか、不安定な経済状況下において、新興企業や中小企業を含む企業が財務上のひっ迫に対処するための追加的な支援「Temporary Bridging Loan Programme(一時的なつなぎ融資プログラム)」「SME Working Capital Loan」が提供されることが明らかになりました。

いずれも資金制約の緩和、そして事業継続の優先が目的となります。


7.最後に

今回は、シンガポールの2024年予算案の概要について、ポイントをお届けしました。

いずれも予測不能な経済状況下において強い力を発揮できるような労働力強化施策、そして個々の生活の柱となりうる支援策が中心となる内容でした。

今回ご紹介した施策を通し、企業や労働者の能力を向上させることで、ダイナミックな世界情勢の課題を乗り切り、これまで以上に強くたくましくなることを目指しています。

なお、このほか2025年1月1日からグローバル・ミニマム課税が正式に導入されることも明らかになりました。

ウォン副首相は「シンガポールの財政状態は健全で持続可能であること、政府が国民の信頼を得ていること、そして人々は常に団結している」と強調し、昨今のダイナミックな世界情勢における荒波を乗り切り、これまで以上に強くしなやかな国家で居続けることを目指しています。

スピーチでも「私たちは回復力、連帯感、団結力を強化し、いかなる困難や試練に対しても戦い続けることができるようにする」と決意を新たにしています。

弊社でも、シンガポールでの人材紹介サービスや情報発信を通し、当地での支援に尽力してまいります。

引き続き、世界の動向の中でのシンガポールの経済状況について注視していきたいと思います。

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